食べられる食材でも捨ててしまう社会。
”規格外”という理由で廃棄されてしまっていた野菜が、絶景カフェのランチプレートとして大変身しているという話を聞き、取材してきました。
1枚のプレートに美しくデコレーションされたお洒落ランチには、食材への愛にあふれた人たちの物語があったのです。
出荷できない野菜たち
丹精込めて作った野菜なのに、”規格外”という理由で廃棄処理されてしまう残念な事情があります。
「1グラム違うだけで”規格外”になるため、出荷できないんです」
陸前高田市横田町で『Farm koganeyama(ファーム小金山)』を営んでいる小金山忍さんは、ピーマンや生姜、大和ルージュ(赤紫色のとうもろこし)などの野菜を生産している農家。
一部の規格外野菜は地域の産地直売所に卸しているものの、量が多すぎて出荷しきれないのが現状だと話します。
虫食いや傷んだものを廃棄するのは仕方がないけれど、大きさや重さが足りずに”規格外”と選別されても、新鮮でおいしく食べてもらえる野菜たちです。味も見た目も、出荷できる野菜とほぼ変わりません。
「規格外野菜の一部はたい肥として活用していますが、できるだけ商品や食材として消費者に届けたいんです」
2022年に規格外になった小金山さんのピーマンの量は、なんと200キログラム。作付けが増えていることから、収穫量とともに規格外野菜も増えそうな見通しだと言います。
何とかならないものか…と日々考えていたところ、ステキな縁に恵まれることになりました。太平洋が眺められる大人気の絶景カフェへ、食材として提供することになったのです。
美しく料理された新鮮野菜
2023年9月、大船渡市赤崎町長崎にオープンした『CAFE gull (カフェ ガル)』は、太平洋が一望できる自然豊かな場所。癒しの空間が満喫できる大人気カフェで、小金山さんの野菜はていねいに料理されています。
「お客さまには、味だけでなく見た目にも美しい料理を楽しんでもらいたいんです」
フラワー関連の仕事をしていた経歴があるオーナーの佐々木ひろみさんは、彩り鮮やかな野菜をランチプレートに使いたいと考えていました。
ある日、たまたまカフェに訪れた『みらい創造財団 朝日のあたる家』の職員から、小金山さんが作っている赤紫色のとうもろこし”大和ルージュ”の話を聞きます。
「色が鮮やかでキレイなだけでなく、とっても甘くて美味しいんですよ」
そう話す佐々木さん。彩り鮮やかな大和ルージュとの運命の出会いは、規格外野菜の存在を知るきっかけになったと言います。
新鮮な野菜を料理に使えるならば…と、規格外ピーマンをランチプレートに、カボチャはデザートに使い、カフェのお客さんを笑顔にしています。
食材への愛と感謝
こうして”規格外野菜”として扱われていた野菜たちは、カフェに訪れるお客様によろこんでもらえるランチプレートやデザートの食材として、新たな役割を得ました。
野菜を作っている小金山さんも、料理を作っている佐々木さんも、料理を楽しむお客さんも、みんなが笑顔になる”魔法のひと皿”です。
廃棄野菜や食品ロスの課題が残される社会ですが、食材への感謝の心を忘れてはいけないと、改めて感じた取材でした。食材への愛にあふれた人たちの物語は、たくさんの笑顔と共に、これからも数多くの縁を繋いでいくことでしょう。
取材・文 藤原喜久江