2021年に立ち上げた『Domaine Mikazuki(ドメーヌ ミカヅキ)』代表の及川恭平さんは、陸前高田市でワインを生産している実業家です。
海のワインと呼ばれているアルバリーニョ(白ブドウ)のワインと、陸前高田市のリンゴを使ったシードル(りんごのスパークリングワイン)を作っています。
高校生のときに東日本大震災を経験。
何も無くなってしまった町を見て、地域との親和性が高い、持続可能な産業を作りたいと思うようになった及川さんは、地域の未来を見据えた壮大なプランを考えました。
地元に根付く産業を作りたい
震災によって、それまで意識していなかったものが見えてきたと話す及川さん。
自分が生かされた意味を考えました。
そして、地元に根付く産業を作りたいと思うようになり、歴史を鑑みた結果、陸前高田市の特異なテロワール(天地人)に辿りついたと言います。
「進学した大学では、ワインを学ぶ授業がありました。地域にとって何が良いのかと考えたら、たまたまワインだったんです」
及川さんは、リンゴは加工や輸出も前提としてやっていかないと、将来的に残せないし地産外商もできないと話します。
料理とペアリングができ、賞味期限がないワインは、観光業とも相性が良いのが魅力です。
「さまざまな要素を踏まえて、ワインを選びました」
使われなくなったリンゴ畑を活用すれば、ブドウの栽培も可能なのだとか。
やはりワインが合いそう…。
及川さんは、いろんな人たちからの話を聞き、世界を見てきて、自分なりに解明できたと言います。
気候や風土は真似できない
ワインはブドウ自体が地域や高級からカジュアルといったブランドを強くまとうため、アルバリーニョと言うだけで『リアス式海岸の海のそばで育ったブドウで作られた高級ワイン』というイメージができます。三陸でやることに意味がある。
及川さんは、どの地質にどの品種が適しているかを総合的に考えたら、アルバリーニョしか考えられないと思ったそうです。
「陸前高田は花崗岩土壌(水はけが良い)なので、アプローチすべき品種は決まっている」
白品種のアルバリーニョは、暑い気候でも丈夫で病気に強く、温暖化対策にもなる。
そのうえ『短梢剪定』ができるので、素人でも手入れしやすく誰にでも扱いやすい品種なのだそう。
新しい産業を創るにも、プレイヤーがいないと意味がないと話す及川さん。
地域に根付く産業、持続可能な産業を作りたいと考えている及川さんにとって、必要な条件だったと言えます。
リンゴ畑だったところを開墾
及川さんは、もともとリンゴ畑だったところを主に開墾しています。
陸前高田市の風土は、リンゴやブドウなどの果樹を生産するのに適した環境です。
先人が、何十年とかけて活用してきた土地、そこには理由があると話す及川さん。
「農地を作るには長い年月がかかる。リンゴの畑は町の宝なのに、作り手の高齢化や人手不足などで畑を潰してしまうのは、非常にもったいないことです」
土地を選び、木を植えてしまえば、誰でも育てていけるようにしたいそうです。
農地として確立している場所を選んで開墾している及川さんは、土地の入手や継続が大変だと話します。
「継続して土地を借りていくにはお互いの信頼が必要だと思っているので、持ち主とコミュニケーションを大事にしています」
及川さんは、人との繋がりを大切にしながら、ドメーヌミカヅキのストーリーをさまざまな方面に発信してきました。震災から長い年月をかけて、コンセプト創りをしてきたと言います。
ゆっくり着実に、事業やプロジェクトの規模を拡大していきたいそうです。
ベストなタイミングで農福連携することに
もともと『誰にでもできる産業を根付かせる』という考え方が根底にあった及川さんは、ちょうど良いタイミングで農福連携することになりました。
「ケガや健康に気を付けるようにしました。特に熱中症が心配だったので…」
午前と午後で手伝いに来る人が変わると、また作業の説明をしなければいけない。
誰が来るのかで揉めることはあったけど……そう笑って話す及川さんは、農福連携を経験してみてハンディは関係ないと再認識したそうです。
「しっかり仕事してくれるんです。何が障害で何が障害でないか『障害』について考えさせられました」
及川さんは、町の生業(なりわい)として、福祉との連携は切っても切れない関係の一部だと話していました。
地域の産品との連携を図りたい
アルバリーニョ自体クオリティが高いことから、陸前高田のワインは世界にじゅうぶん対抗できると及川さんは言います。
「20年ぐらい先を見据え、やるべきことを逆算し、それに向けて行動しています」
地元への恩返し。
自分を起爆剤にして、何か(誰か)のきっかけになってもらえたら嬉しいと話す及川さん。
10年後までには『地域に根付く産業』を完成させたいというワイナリーの物語に、今後も目が離せません。
高校生のときに芽生えた想いにブレることなく、一歩一歩確実に、地域の未来を作り続けています。
取材・文:藤原喜久江