農福連携進捗


朝日のあたるファーム開設!地域とともに新しい未来を拓く【前編】


2025年4月1日、陸前高田市に新たな就労支援の場が誕生しました。

就労継続支援B型事業所「朝日のあたるファーム」です。

障がいのある方や、生きづらさを抱える方の「働きたい」という気持ちを大切にし、一人ひとりが自分のペースで働きながら、社会とのつながりを育み、将来的な就労につなげていく。

そんな〝ファーストステップ〟となる支援の場です。

就労継続支援「B型」の特徴は、福祉サービスの中でサポートを受けながら、雇用契約を結ばずに働けること。

企業での雇用とは異なり、作業した分だけ工賃が支払われます。利用者は、自分の体調や生活に合わせて無理なく働くことができます。

一人ひとりのペースで小さなステップアップを重ねながら、できることを広げ、やりたいことを見つけていきます。

農業に特化した就労支援を

朝日のあたるファームは、農業に特化した就労支援をおこなっているのが特徴です。地域の農家と連携し、季節に応じた農作業や環境整備など、地域に根ざした仕事に取り組みます。

ファーム(FARM)という名前には、4つの想いが込められています。

・Fostering(人を耕す)

・Agricultural(農を耕す)

・Regional(地域を耕す)

・Mobilization(未来を耕す)

この想いを大切にしながら、利用者の働く喜びや自信を育み、地域の一員として活躍できるような支援を目指しています。

現在は2025/4月開所から6名の利用者が在籍しており、最終的には20名程度まで受け入れる構想です。

今回(前編)では、事業の立ち上げを担った事業統括責任者の鈴木拓さん、事務局長の臼井薫子さん、そして会館運営スタッフの畠山操子さんにお話を伺いました。

農業と福祉をつなぎ、地域に貢献できるパートナーへ──鈴木拓さん(事業統括責任者)

「構想から実証、準備を経て、ようやく本格スタートにこぎつけました。ここまで来られたこと自体が、大きな一歩でした」

朝日のあたるファームの開所について、事業統括責任者の鈴木拓さんはそう語ります。

朝日のあたる家ではこれまでも、地域の農家や企業と連携し、産業と福祉を結ぶ「産福連携」に取り組んできました。

そこで見えてきたのは、年間を通して発生する農業の一連の仕事と、地域の困りごとが継続的な業務になり得るということ。

「それらの仕事を、ファームの利用者というチームで支える仕組みができれば、就労支援としてしっかり成り立つ。そう確信しました」

なかでも鈴木さんが重視するのは、労働と報酬のバランスです。

「B型事業所の工賃は全国平均で月23,000円ほど。まだまだ十分な対価とは言えません。でも私たちは、農作業や竹林整備など、地域の困りごとを仕事として受注し、利用者の皆さんにその対価を届けています。4月の開所から岩手県平均をすでに上回っており、一番通所した方で5〜6万ほどの工賃に、今年中にも平均工賃は全国平均の2倍を目指せる見通しです」

現在は、ピーマン農家とりんご農家の支援に特化したモデル事業にも着手しています。

「まずは産業を深掘りし、営農計画の支援まで一緒に行える体制をつくっていきたい」と展望を語ります。

就労支援の枠を超えた大きな視野も感じられます。

「単なる仕事の請負先ではなく、地域の産業と共に歩むパートナーになりたい。そして利用者さん一人ひとりが、ここでの経験を通じて、本当にやりたいことや希望する働き方を見つけられるよう、しっかり寄り添っていきます。

ファームがゴールではなく、この先により良い社会をつくることが最終目標です」

鈴木さんが描くのは、地域と人を耕し、支え合う新しい社会の土台づくりです。

〝ごちゃまぜ〟が、いいんです──臼井薫子さん(事務局長)

「決まった枠にとらわれず、このファームが地域の中に自然と根づいてくれたらうれしいですね」

そう話してくれたのは、朝日のあたる家で長年、事務局長を務めてきた臼井さん。

もともと朝日のあたる家は、地域のコミュニティ拠点として、健康体操に来る人、手芸を楽しむ人など、さまざまな人たちが出入りする場として親しまれてきました。

今後は、ファームの利用者もこの場所に加わることで、さらに多様な人たちが集うことになります。

「利用目的が違っていても、自然と一緒に過ごす空気が生まれているんですよね。他の人が何をしているのかが見えることで、『人手が足りないから手伝ってくれない?』と声をかけ、助け合えると思うんです。

今回、就労支援事業が始まったことで、混ざり合う感じがまた一歩進んだ気がします」と話します。

「事務局長とはいえ、事務より畑作業のほうが楽しい!」とできるだけ畑に出ているのだそう

「いろんな人たちが、ゆるやかにつながって過ごす。それが当たり前になっていくと、また面白いことが起こりそうな気がして。新しい化学反応を楽しみですね!」と話してくれました。

利用者を、気持ちよく迎え入れたい──畠山操子さん(開館運営)

「利用者さんに寄り添う存在でいたいです」

そう話してくれたのは朝日のあたる家で長年、運営スタッフとして施設を支えてきた畠山操子(みさこ)さん。

「就労支援に関わるのは初めてで、最初は『どう接したらいいのかな』と戸惑うところもありました。でも、やっぱり実際に関わって、体で覚えていくしかないんですよね。これからも、いろんな方と出会っていくと思うので、そのひとつひとつの関わりを大事にしていきたいです」

畠山さん(左)が大切にしていることは「いつも、明るくいること」

「優しく、誠意をもって接すれば、きっと伝わると思うんです。

事前に就労支援についての知識を入れておいたほうがいいのか、まっさらな気持ちで向き合うほうがいいのか悩むこともあります。自分なりに、そのバランスを探しながらやっていきたいですね」

第一印象を大切にしたいという畠山さんは、日々の掃除にも力を入れています。

「清潔感って、やっぱり大事ですよね。気持ちよく館内で過ごしてもらいたいので、掃除はほとんど私がやってるんです。自称、用務員です(笑)。

元気だけが取り柄ですから。笑顔で、新しく来る方を迎え入れたいと思っています」

畠山さんの「いってらっしゃい」と「おかえり」が、畑に出る利用者をあたたかく労ってくれます。

「今、最高のスタッフがそろっています」

一歩を踏み出した、朝日のあたるファーム。

全体を統括する鈴木さんが大事にしているのは、チームづくりです。

理想の施設を目指して、スタッフ全員で会議を重ね、大切にしたいことや大切にしたい行動について、丁寧に話し合ってきました。

そして今、鈴木さんが「最高のチームができている」と言えるスタッフたちが、現場を支えています。

次回【後編】では、朝日のあたるファームを日々支える、個性豊かなスタッフたちの声をご紹介します。

取材・文 板林恵

↓後編はコチラから↓

一覧

ページのトップへ戻る