使えそうな物を大事に使う。
資源を再資源化(リサイクル)することは、持続可能な好循環サイクルを形成します。陸前高田市にも、業界の垣根を越えて協力し合い、それぞれの事業を盛り上げていこうとしている人たちがいます。
地域の「もったいない」を活かして循環型農業にチャレンジする人たちの、未来への一歩を取材しました。
循環型農業への取り組み
地域の「もったいない」に、真剣に向き合っている人がいます。陸前高田市気仙町でオリジナルクラフトビールを造っている、『陸前高田マイクロブルワリー』の熊谷克郎さんです。
クラフトビールは、モルト(発芽した麦を乾燥させたもの)・ホップ・水・酵母といったビール4大原料によって醸造されますが、醸造過程でモルト粕(麦芽のかす)が発生します。熊谷さんのマイクロブルワリーも同じです。
ほとんどのモルト粕は、廃棄処分されるのが一般的なのだと言います。
「食べられる物なのに、捨ててしまうのはもったいない」
レストラン経営もしている熊谷さんは、モルト粕を食品加工した”グラノーラ”も販売しており、ヘルシー志向のお客様においしく食べてもらっていると話します。
一部は、動物のえさや農地の肥料として活用されることもあるモルト粕。熊谷さんも、地域の生産者へ”牛のえさ”として提供しているのだそうです。
そんなある日、熊谷さんは『みらい創造財団 朝日のあたる家』の職員との縁がきっかけで、循環型農業への取り組みに協力することになりました。地域の農家へ、農地用の肥料としてモルト粕を提供してみようというプランです。
モルト粕を有機肥料に
熊谷さんのモルト粕は、陸前高田市横田町で『Farm koganeyama(ファーム小金山)』を営んでいる農家、小金山忍さんの畑へ有機肥料として活用されることになりました。
小金山さんも、簡単に物を捨てない「もったない」に向き合っている人のひとりです。
小金山さんの畑では、鶏糞(けいふん)や牛糞(ぎゅうふん)などの有機肥料を使っています。田んぼだった場所に緑肥を施して農地拡大を目指していますが、畑として使うには有機物が足りないからなのだそうです。 有機肥料を使う主なメリットは、有機物が少ない土地に活用できるだけでなく、コストを抑えられること。モルト粕なら、農家にとって願ったり叶ったりの有機物です。
「まだ試している途中なので、今後に期待しているところです」
自身がイメージする農地を目指し、土壌改良された肥沃な畑になるまで、小金山さんの試行錯誤が続きます。
「もったいない」には価値がある
熊谷さんと小金山さんの「使えそうな物は大事に使う」という共通の想いは、地域の人たちを新しいステージへと導いてくれそう…。そんなふうに感じる取材でした。
「もったいない」には価値があり、廃棄処理される資源にも、まだまだ再資源化への可能性があることを期待せずにはいられません。
二人ならきっと、環境にも人にも優しい、”地域の循環サイクル”を築くキーパーソンになってくれることでしょう。
小金山さんの野菜を使って熊谷さんがクラフトビールを造ったら、近い将来、世間の注目を浴びる日が来るかもしれません。地域が誇る循環型農業をイメージしてみると、心が躍ります。
取材・文 藤原喜久江