農福連携進捗


北限のゆず研究会×障がい者就労継続支援B型事業所 あすなろホーム

北限のゆずを通して広がる 笑顔の循環


障がい者就労継続支援B型事業所 あすなろホーム

陸前高田市役所から車を走らせること約5分。市街地を見下ろせる丘の上に「障がい者就労継続支援B型事業所 あすなろホーム」はあります。

この事業所が目指す目的は、施設の利用者さんが、自立した日常生活や社会生活を営むことが出来るように就労の機会を提供することです。

菓子の製造販売やカフェの営業の他、企業から委託されたゆずの加工作業、わかめの加工作業など、季節に合わせた就労作業を行っています。

北限のゆず研究会 佐々木会長は

「あすなろホームさんは、研究会の発足当初から参加していただきました。その時は『農福連携』の自覚はなく、この連携は当たり前だという認識で情報発信もしてきませんでしたね。でもこの活動自体が施設利用者さんにとっても良いものである、という感覚はありました」

さっそく作業現場へ

今回の取材は、すっかり冷え込んできた11月半ば。この日は3名の利用者の方が北限のゆず研究会が育て、選果された規格B下のゆず(※1)の搾汁作業を行っていました。この果実の搾汁作業も、農福連携事業として各施設の利用者さんが対応しているものです。そして、搾汁作業以外にもくり抜き作業などの業務もあり、合わせると日に10名ほどの利用者さんがゆずの加工作業に参加されています。研究会とあすなろホームの農福連携は、今年でなんと11年目になるそうです。

(※1:選果規格B下:果実の色づきは良いが、穴や傷があり、生果での販売が難しいもの) 
  

この作業場での仕事は大きく分けて2つあります。

まずは、果実の洗浄作業です。こちらには、果実の汚れを確認して、それをきちんと洗うことが出来る人材を配置しているそうです。搾汁を行う際に表面に汚れがあると、機械や搾汁した果汁も汚れてしまうため、2回に分けてしっかりと洗っていきます。1秒に1個ずつ洗われるスピード感で、どんどん作業が進められていきます。

そして洗浄された果実はケースへ移され、水気を切った後に搾汁します。果実を一つ手に取り、手慣れた様子で機械にセット。こちらでも、手を機械の奥まで誤って入れてしまわないように対応が出来る人材を配置しているそうです。

 

果実は搾汁機を通ると、皮、種、果汁にそれぞれ分けられます。搾汁がメインの作業ではありますが、皮のきれいなものは、中の種等を取り皮だけのものや皮をスライス状にしたものに加工され、商品として販売されています。また、規格外や搾汁後傷の多く皮の利用ができないものは、連携している農家さんの元で堆肥として使用されることもあり、地域での良い循環も生まれています。

新鮮なゆずが一つ一つ搾汁されることにより、作業場全体にゆずのいい香りが漂っていました。

外部就労というゴールへ向けて

あすなろホームにて就労作業を行っている利用者さんは、心の病を抱えている方、知的障害がある方、ダウン症の方、他者とコミュニケーションを取るのが苦手な方など、それぞれが様々な個性を持ち合わせています。

「利用者さん自身が『これなら出来る』と感じられる作業を職員が見極め、適材適所で作業をしてもらっています。作業を通して、やれることが増えると自信がついてきて、段々とそこで楽しさを感じてくれるようですね。その気持ちは私たち職員の嬉しさにも繋がります。ここで体験した作業の何か一つでも、仕事にしたいと感じてもらえたら理想的ですね。何かしらの可能性を増やしてあげたいです」と職員の伊藤さんは目を細めて話します。

実際に作業をしている利用者さんにもお話を伺うことが出来ました。

「ここでの作業は楽しいですか?」と私が問いかけると「楽しい!」マスクを付けていても分かるくらいの満面の笑みで答えてくれました。 「正直、夏場は炎天下の中での屋外作業もあり、熱中症の心配もあるので室内での作業は安心感があります」と率直な感想を言える環境もまた魅力的です。

おわりに

もちろんそれだけが全てではありませんが……と前置きがあった上で「こちらでの作業をゴールとするのではなく、目標は外部雇用契約を結ぶことが出来るような人材に育てていくこと」だと語る、伊藤さん。

「あすなろホームでは、職員や周りの仲間達も各個人の特性を理解した上で対応をしていますが、外へ出れば特性を知っている人だけと時間を過ごすわけではありません。もちろんこちらでも出来る限りの教育的指導をして送り出していますが、この先に出会う人達も少しでいいので、彼らの特性や接し方に対して理解をしていただけるとありがたいですね。安い賃金で働いてくれる労働者……という見方も変わっていってほしいです。特に、利用者さんの指導に対しては、マニュアルを与えることよりも、手本となる人が正しいやり方を見せたり、自身で同じ作業を何度も何度も繰り返してもらうことで体が覚えていくことが何よりも大切だと感じています。また一方で、実際に卒業した後に、施設に戻りたい……と弱音を吐いてしまう方がいることも事実です。なので、長期的に働くことが出来るような精神に成長させることも私たちの役割ですね」

現在、あすなろホームを卒業された方での外部雇用実績はおおよそ20件前後。(2023年11月現在)これからも、職員さんと利用者さんの二人三脚の学びは続いていきます。

文 垣内亜美

- 作業日数 56日間
- 総作業時間 平均3時間×56日 168時間
- 参加延べ人数 平均3人×56日間 168人
- 委託費合計 949,058円
- 生産収穫量 12トン

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