陸前高田市の「高寿会 東部デイサービスセンター」では、利用者たちが椿の葉の一次加工作業に取り組んでいます。この作業は大船渡市にある株式会社バンザイ・ファクトリーとの連携により行われており、作業後の椿の葉は「椿茶」の原材料として使用されます。
談笑しながら手際よく進む作業
この施設では、椿の葉を切り、葉の表面を食品用アルコールで拭くという2つの作業が行われています。この日は90代の女性4人が作業をしていました。
一人の女性は葉を切りながら「切るくらい難しくないから、話しながらやっているよ。昔のワカメ仕事に比べれば、ずっと簡単。年寄りは手先が器用なの」と語り、もう一人の女性は葉を拭きながら「拭けばツヤが出て綺麗になるね」と嬉しそうに話し、手際よく作業を進めていました。
「手仕事がしたい」利用者の想いがきっかけ
この取り組みについて、東部デイサービスセンターの管理者である熊谷敬子さんにお話を伺いました。
「始めたきっかけは『体は思うように動かないけれど、手先を使う仕事がしたい』という利用者さんの言葉でした。それを受けて、何ができるか考え始めました。
産福連携コーディネーターの鈴木さんが、この取り組みを紹介してくれて、体験する機会を作ってくれたので、安心して本格的に始められました。ここに来る高齢者は、前は漁業や畑仕事をしていた人も多いので、皆さんすごく器用なんですよ」と話します。
「こういう仕事を取り入れる前は、デイサービスでのお風呂や体操の後、午前中から寝てしまう日もありました。でも今は『今日は椿の仕事をする』と思うのか、生活リズムができてちょっとした活力になっているのかな」と、いい効果を感じているようです。
全ての人が参加できる仕事であるように
次に、椿茶の製造販売を手がけるバンザイ・ファクトリーの社長、髙橋和良さんにも産業と福祉の連携に関する想いを伺いました。
髙橋さんは言います。
「様々な団体から『私の団体でも椿の仕事をしたい』という声をいただいています。特に、ある障がい者支援団体からは『障がいのある人たち全員が参加できる仕事は初めて』という感想を聞きました。障がいが重くても葉を拭く作業はできるし、障がいを持ちながら検品をしている人もいます。椿の仕事は誰もが参加できる仕事になっていることが嬉しいですね」
現在バンザイ・ファクトリーの連携は12ヶ所に広がり、産業と福祉の連携に手ごたえを感じているそうです。
強く生きる椿のように
髙橋さんによると、椿は他の植物より長い時間をかけて地中深くに根を張る植物なのだそうです。
「津波の塩害で根が浅い植物は枯れたものの、根を深く張る椿は負けなかったんです。流れが速いこの時代ですが、根を深く張り、人生の荒波のなかでも花を咲かせる。三陸椿の生き様に人生も重なると思うんです。地域に自生する椿を通じて、地域が良くなっていくといいですね」
大地にしっかり根を深く張り、強い生命力を持つ椿と、人の生きる姿が重なります。
「椿の花言葉は“誇り”なんです。何か仕事をしたいと考えるのは、人間としての尊厳を切らしたくない気持ちかもしれませんね」という言葉が印象的でした。
この取り組みが「産業の拡大」と「誰もが役割を持つ」、豊かな地域社会の実現に貢献していくのでしょう。
取材・文 板林恵