
2025年4月に開所した就労継続支援B型事業所「朝日のあたるファーム」。
現場での作業も、本格的に動き始めています。
このファームの特徴は、農業に特化した就労支援を行っていること。
農家にとっては、人手不足の解消や作業効率・生産性の向上につながり、働きにくさを抱える人たちにとっては、地域の生産活動に関わるやりがいある仕事に出会える場となります。
そして、地域全体の農業が活性化していく――。 そんな「三方よし」の取り組みが、着々と動き始めています。

それぞれの課題をともに解決する
この日、利用者たちが訪れたのは、陸前高田市でピーマンや黄金生姜(こがねしょうが)を中心に栽培する「ファーム小金山」さんの畑。
ピーマンの「定植」作業を行います。

ファームを営む、小金山忍さんはこう話します。
「ピーマンが収穫期を迎えても人手が足りなくて、せっかく育ったものを収穫できずにダメにしてしまうこともありました。選別も作業量が多く、以前は『これ以上、畑の規模を広げられないな』って思っていました」
朝日のあたるファームとの連携で、収穫の協力が得られるようになり、生産拡大の見通しがついてきたのだそう。今年からは畑を増やすことができ、たしかな手応えを感じています。

人手と分担で農作業がはかどる
定植ひとつにも、さまざまな工程があります。
畝(うね)に張られた「マルチ」と呼ばれる黒いビニールシートに穴をあけ、顆粒の肥料を入れていきます。
液体肥料にひたした苗を運び、一つひとつ丁寧に植えていきます。


その後、支柱を立てて作業は完了です。

利用者のみなさんは軽く談笑しながらも、集中して一生懸命に仕事をしていました。
小金山さん、利用者、職員あわせて10人あまりで作業。2日間(各日4時間)で、なんと2,800本の苗を植えることができました。
5月中にはさらに1,200本を追加し、最終的には4,000本を目指しているそうです。
もし少人数で全てを行っていたら、2,800本の定植には半月以上かかっていたとのこと。まして4,000本を目指すことは、難しかったでしょう。
連携が、農家を支えている――そんな手応えを感じました。

朝日のあたるファームの利用者の声
利用者Rさんは、作業の合間にこう話してくれました。
「以前は体調を崩して、自宅から出ない生活が続いていました。働くこと自体が難しいと思っていました…。でも、ここに入ってから前向きになれて、1週間しっかり働けるようになりました。農業の仕事は筋トレにもなって最高ですね。楽しくてしょうがないんです」

女性のKさんも、「最初は不安だったけど、手を動かしてみるとだんだん慣れてきて。今日も仕事が楽しみだな、と思ってここに来ました」と話してくれました。

朝日のあたるファームでは、利用者が多様な作業に取り組む中で、自分の適性や将来の姿を見つけ、ステップアップの機会を得ることができています。
農家の挑戦を、パートナーとして支える
朝日のあたるファームは、「単なる〝労働力〟ではなく、農家の事業をともに支え・育てていくパートナーである」ことを大切に、事業を設計してきました。
目指しているのは、生産の一部だけでなく全体を支え、地域全体の困りごとを解決できる存在になること。その結果、利用者のやりがいある就労の場と、高賃金の実現にもつながると考えています。
実際、これまでのB型事業所には、仕事の選択肢が限られていたり、賃金が低く、やりがいのある仕事に出会いにくいという課題がありました。
朝日のあたるファームでは、地域の農家と連携することで、年間を通じた安定的な農作業の提供が可能に。利用者は地域の生産活動に関わるやりがいを感じながら、全国・県平均を上回る賃金を得られる環境で働いています。
さらに現在では、竹林の整備や放置竹の伐採といった地域の〝困りごと〟に関する依頼も多数寄せられ、開所から間もないながらも、地域にとって欠かせない存在となりつつあります。

作業が行われたこの日は、日本の七十二候で「霜止出苗(しもやみて なえいずる)」の時期。霜が止み、苗が芽吹く季節です。
苗を植えるのにもぴったりのこの日に、定植したことが意味深くも感じられます。
ピーマンも、利用者の未来も、この地域の産業も――。
やがて訪れる実りの季節を、いま、みんなで耕しています。

取材・文 板林恵
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